混迷する中東



 中東の民主化運動「アラブの春」から3年以上が過ぎた。市民のエネルギーは当初、強権体制打倒へと向かったが、社会階層、宗派、部族の利害がむき出しになり、各地でいまも政情不安や内戦状態が続く。混乱に乗じて台頭した「イスラム国」は国際社会を巻き込み、この地域の混迷をさらに深めている。

 シリアのムアレム外相は先月25日、「イスラム国との戦いで国際社会と協力する用意がある」と述べた。米国も、イラク領内で行っているイスラム国への空爆をシリア領内へ広げることを検討している。
 アラブの春後に始まったシリア内戦を「テロとの戦い」と位置づけ、反体制派を弾圧してきたアサド政権の主張が、単に強弁だったと言い切れない状況だ。

 シリア内戦が始まると、イスラム教アラウィ派が主導するアサド政権を敵視する湾岸諸国から、スンニ派が主流を占める反体制派に資金が流入した。アラビア半島や北アフリカからも、若者たちが反体制派に加勢するためシリアに入った。だが戦闘力や統率力で劣る反体制派が政権軍に押されるなかで、イスラム国は勢力を拡大した。

 2011年に米軍が撤退したイラクでは、シーア派が実権を握るマリキ政権に対してイスラム国が攻撃をしかけ、スンニ派住民が多数を占める地域を中心に支配範囲を広げた。シーア派のイランを脅威とみなす湾岸諸国が、当初はイスラム国の出現を静観していたことも、拡大を招く結果となったといえる。

 中東でイスラム国など過激派の考え方が広がる背景には、貧困や格差がある。イスラム国は戦闘員に住居を割り当て、給与も支払っているとされる。仕事もなく生活に困った若者たちが、潤沢な資金を持つとされるイスラム国に引きつけられたとしても不思議ではない。
 エジプトでは昨年、選挙で誕生したイスラム組織「ムスリム同胞団」の政権がクーデターで倒された。いま、軍出身のシーシ大統領が率いる強権政治が復活し、同胞団はテロ組織として弾圧されている。

 ムスリム同胞団は食料配布や医療奉仕などの社会活動に取り組み、貧困層の受け皿になってきた。また、国内のモスク(イスラム教礼拝所)をほぼ掌握し、過激派が勢力を広げない機能も果たしてきた。エジプト軍は東部シナイ半島で過激派掃討に力を入れているが、同胞団の弱体化による貧困の拡大に加え、過激派が都市部に流入する事態となれば、新たな混乱を招きかねない。

 40年以上続いたカダフィ政権が内戦の末に倒れたリビアからは、内戦で使われた大量の武器が中東や北アフリカの過激派に流れたと言われている。カダフィ政権崩壊後も民兵組織同士の戦闘がやまず、政府や議会でも民族系とイスラム系の対立が続く。首都トリポリの国際空港は武装組織に掌握された。同国政府関係者は取材に「カオスとしか言いようがない」と語った。

(朝日新聞 2014-9-11)



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