タイ、仏壇も墓参りもない仏教



■バンコクでの葬儀
 日本には仏壇がある家が多い。そこには先祖らの位牌が置かれている、日本人はお盆やお彼岸のときに墓参りに出かけ、先祖らの遺骨を納めている墓の前で手を合わせる。君も花や線香を手に墓参りをしたことがあるだろう。
 しかし、アジアには、同じ仏教でも家に仏壇がなく、墓もつくらない人たちが多い、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、スリランカなどの仏教徒たちだ。

 先日、タイの知り合いのおばあさんが亡くなった。僕も世話になった人だった。たまたまタイにいたので、首都バンコクの寺院での葬儀に出かけた。お坊さんが壇上に並び、読経が続いた。葬儀は7日間行われたが、僕は1日だけ参列した。その後、知人から連絡があった。
「おばあさんの遺骨をチャオプラヤ川に散骨しにいくのでいっしょにどうですか」

 チャオプラヤ川はバンコクを流れる大きな川だ。当日、船が一つ用意されていた。そこに家族や親戚、知人が乗り込み、1時間近く川を下った。まもなく海という地点で船は止まり、それぞれに分けられた遺骨を川面に向かって投げた。
 こうすることでおばあさんは輪廻するとタイ人は考えている。輪廻とは、人や動物などに生まれ変わることだ。
 儀式はこれで終わりだった。墓もつくらないから、その後、お参りすることもない。タイにはお盆もお彼岸もない。

■お坊さんの修行はきびしい
 仏教にはふたつの大きな流れがある。大乗仏教と上座部仏教だ。日本人は大乗仏教を信じているが、東南アジアの仏教徒の多くは上座部仏教を信じている。
 仏教の教えは難しいが、簡単に言うと、大乗仏教は、修行したお坊さんだけでなく、普通に人も祈れば救われて極楽に行けるという考えだ。大乗仏教は中国に生まれた儒教の教えの影響を強く受けている。儒教では先祖をまつり、祈ることをとても大切にする。だから家に仏壇があり、墓参りに出かけるのだ。

 上座部仏教では、修行を積むのはお坊さんだけで、その修行を普通の人々が助ける役割を担うと考えられている。だからお坊さんは特別な存在で、列車やバスには専用席もある。
 お坊さんの修行はきびしい。食事をしていいのは昼まで。その食べ物も、人々からささげられたものに限られる。自分で買ってきて食事をしてはだめ。結婚もできない。
 最近のタイでは体調不良を訴えるお坊さんが少なくない。食生活が変わり、ささげられる食べ物の中に甘いものなど健康によくないものが増えたためといわれる。食べ物を選ぶことができずに太ってしまい、病気になるお坊さんが多いのだ。そういうお坊さんの病気を治すための施設もできているという。
(下川裕冶:旅行作家)

(沖縄タイムス ワラビー 2017-1-8)



目次   


inserted by FC2 system