日本の来訪神  




 沖縄の奇祭を調べていると、日本本土にも様々な来訪神(らいほうしん)があることがわかった。2018年には、日本の来訪神行事10件が「来訪神、仮面・仮装の神々」としてユネスコ無形文化遺産に登録された。来訪神は、年に一度、決まった時期に人間の世界に来訪するとされる神。人々の前に異様な風体で現れて災厄を祓い豊穣をもたらすとされる神々で、このような信仰は世界各地に見られるという。

■吉浜(よしはま)のスネカ=岩手県大船渡市
 小正月(1月15日)の晩になると鬼とも獣ともつかない面をつけ、簑(みの)に身を包んだ「スネカ」が家々を訪れる。「スネカ」という呼び名は「スネカワタグリ」を縮めたもの。冬の間、長いこと囲炉裏にあたって火斑(ひがた、低温火傷)ができた怠け者の「脛皮」(すねかわ)を「たくる」(剥ぎ取る)ことから来ている。地元特産のアワビの殻を付け、歩く度に『ガラガラ、ガラガラ』と音を立てる。これがスネカの訪問の合図となり、子供たちの恐怖心をあおる。

■米川(よねかわ)の水かぶり=宮城県登米市
 800年以上の歴史と伝統を誇る火伏せ行事で、毎年2月の初午の日に東和町米川地区で開催される。かまどのすすを顔に塗り、藁(わら)で作った水かぶり装束を身にまとい、大慈寺境内にある秋葉大権現に火伏せを祈願する。神の使いとなった一行は、奇声をあげて各家庭の屋根に向かってバケツや桶の水をかけながら町を練り歩く。藁は火難除けのお守りとされているため、地域の人たちはまとった装束から藁を抜きとり、家の屋根に投げ上げる。

■男鹿(おが)のナマハゲ=秋田県男鹿市
 大晦日の晩、それぞれの集落の青年たちがナマハゲに扮して、「泣く子はいねがー、親の言うこど聞がね子はいねがー、ここの家の嫁は早起きするがー」などと大声で叫びながら地域の家々を巡る。ナマハゲは、怠け心を戒め、無病息災・田畑の実り・山の幸・海の幸をもたらす。ナマハゲを迎える家では、昔から伝わる作法により料理や酒を準備して丁重にもてなす。
 ナマハゲの「なま」は、「なもみ」という囲炉裏にあたっていると手足にできる低温火傷のこと。 なもみができるということは、冬場、火にあたってばかりいて怠けている証拠であるから、ナマハゲが包丁でなもみを剥ぎ、怠け者の子供を戒める。

■遊佐(ゆざ)のアマハゲ=山形県飽海郡遊佐町
 1月上旬、「ケンダン」という藁(わら)を何重にも重ねた蓑(みの)を身にまとい、鬼や翁の面をつけた若者が、正月に各戸を回って子供の怠け心をいさめたり、お年寄りの長寿を願う行事。低温火傷のことを方言で「アマミ」ということから、「アマハゲ」とは「アマミを剥ぐ」という意味がある。

■能登のアマメハギ=石川県輪島市・鳳珠郡能登町
 能登に古くから伝わる正月行事で、「ガチャ」と呼ぶ鬼や天狗、猿の面を付けた一行が家々を訪れ、「怠け者はおらんか」と小さな子どもを戒めて回る。家庭の災厄を払う願いも込められている。アマメとは、低温火傷のことで、それを引きはがすのがアマメハギ。1月〜2月に行われ、耕作が始まる春を前に農民の怠惰を戒めようとしたのが、ルーツとされる。

■見島(みしま)のカセドリ=佐賀県佐賀市
 毎年2月の第2土曜日の夜に催される民俗行事で、青年2名が藁で編まれた簑の装束を付け、竹を持って打ち鳴らしながら熊野神社内で所作を行う。その後地区内の各家庭をまわり、悪霊を払い、1年の家内安全や五穀豊穣を祈願する。

■甑島(こしきじま)のトシドン=鹿児島県薩摩川内市(下甑島)
 毎年12月31日(大晦日)の夜、家々を訪れる祝福の神様。天空や高い山や岩の上から、首のない馬に乗ってくると言われている。シュロの皮やソテツの葉などを使い、鼻の長い恐ろしい顔をしたトシドンが、3歳〜8歳の子どもがいる家々を訪れ、子どもたちの日ごろの良いところを褒めたり、諭したり、歌を歌わすなどして、最後に年餅と呼ばれる大きな餅を与えて去っていく。

■薩摩硫黄島のメンドン=鹿児島県鹿児島郡三島村(薩摩硫黄島)
 旧暦8月1日と2日の両日にかけて硫黄権現(熊野神社)に奉納した後、集落の各所を踊ってまわる。矢旗を背負い、鉦(かね)叩きと称される唄い手とそれを囲む10名の若者たちが太鼓を叩きながら掛け声とともに踊る勇壮な伝統行事。にぎやかな踊りが終わったところで、仮面神「メンドン」が現れ、暴れまわり悪霊を祓う。

■悪石島(あくせきじま)のボゼ=鹿児島県鹿児島郡十島村(悪石島)
 ボゼが、お盆の最終日にあたる旧暦の7月16日に現れ、悪霊や村人の穢れを払う。ボゼに扮するのは若者たち。ギョロリと大きな目や口、長い鼻を携えた仮面を被り、ビロウの葉で体を覆う。ボゼマラという棒を持ち人々を追いかけ、ボゼマラの先端についた赤い泥を人々に擦り付けることで厄払いを行う。

■宮古島のパーントゥ=沖縄県宮古島市(宮古島)
 毎年旧暦9月の上旬に開催される悪霊払いの行事。3人の青年がパーントゥに選ばれ、全身に泥を塗る。人々に泥を塗りつけることで無病息災を祈願する。「沖縄のユニークな神様」参照。



(2020)

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