仏 教

10.宗派
 釈迦以後、インド本国では大別して「部派仏教」「大乗仏教」「密教」が時代の変遷と共に起こった。

「部派仏教」
 アビダルマ仏教とも呼ばれる。釈迦や直弟子の伝統的な教義を守る保守派仏教。仏滅後100年頃に戒律の解釈などから上座部と大衆部に分裂(根本分裂)、さらにインド各地域に分散していた出家修行者の集団らは、それぞれに釈迦の教えの内容を整理・解析するようになる。そこでまとめられたものを論蔵(アビダルマ)といい、それぞれの論蔵を持つ学派が最終的におおよそ20になったとされ、これらを総称して部派仏教という。

 このうち現在まで存続するのは上座部(分別説部、保守派、長老派)のみである。古くはヒンドゥー教や大乗仏教を信奉してきた東南アジアの王朝では、しだいにスリランカを起点とした上座部仏教がその地位に取って代わるようになり、現在まで広く根付いている(南伝仏教)。

 部派仏教は、かつて新興勢力であった大乗仏教からは自分だけの救いを求めていると見なされ小乗仏教(小さい乗り物の仏教)と蔑称されていた。上座部仏教の目的は、個人が自ら真理(法)に目覚めて「悟り」を得ることである。最終的には「あらゆるものごとは、我(アートマン)ではない(無我)」「我(アートマン)を見つけ出すことはできない」と覚り、すべての欲や執着をすてることによって、苦の束縛から解放されること(=解脱)を求めることである。一般にこの境地を涅槃と呼ぶ。

 上座部仏教では、釈迦を仏陀と尊崇し、その教え(法)を理解し、自分自身が四念住、止観などの実践修行によってさとりを得、煩悩をのぞき、輪廻の苦から解脱して涅槃の境地に入ることを目標とする。

「大乗仏教」
 大乗仏教とは、他者を救済せずに自分だけで彼岸(悟りの世界)へは渡るまいとする菩薩行を中心に据えた仏教である。出家者中心のものであった部派仏教から、一般民衆の救済を求めてインド北部において発生したと考えられている。ヒマラヤを越えて中央アジア、中国へ伝わったことから北伝仏教ともいう。おおよそ初期・中期・後期に大別され、中観派、唯識派、浄土教、禅宗、天台宗などとそれぞれに派生して教えを変遷させていった。

 大乗仏教では、一般に数々の輪廻の中で、徳(波羅蜜)を積み、阿羅漢ではなく、仏陀となることが究極的な目標とされるが、 自身の涅槃を追求するにとどまらず、苦の中にある全ての生き物たち(一切衆生)への救済に対する誓いを立てること(=誓願)を目的とする立場もあり、その目的は、ある特定のものにまとめることはできない。さらに、道元のいう「」(『正法眼蔵』)など、自身はすでに涅槃の境地へ入る段階に達していながら仏にならず、苦の中にある全ての生き物たち(一切衆生)への慈悲から輪廻の中に留まり、衆生への救済に取り組む面も強調・奨励される。

「密教」
 後期大乗仏教とも呼ばれる。インド本国では4世紀より国教として定められたヒンドゥー教が徐々に勢力を拡張していく。その中で部派仏教は6世紀頃にインドからは消滅し、7世紀に入って大乗仏教も徐々にヒンドゥー教に吸収されてゆき、ヒンドゥー教の一派であるタントラ教の教義を取り入れて密教となった。すなわち密教とは仏教のヒンドゥー化である。

 中期密教期に至り、密教の修行は、口に呪文(真言、マントラ)を唱え、手にを結び、心に大日如来を思う三密という独特のスタイルをとった。曼荼羅はその世界観を表したものである。教義、儀礼は秘密で門外漢には伝えない特徴を持つ。秘密の教えであるので、密教と呼ばれた。

 「秘密の教え」という意味の表現が用いられる理由としては、顕教が全ての信者に開かれているのに対して、灌頂の儀式を受けた者以外には示してはならないとされた点で「秘密の教え」だともされ、また、言語では表現できない仏の悟り、それ自体を伝えるもので、凡夫の理解を超えているという点で「秘密の教え」だからだとも言う。

「経典の使用言語による分類」
 伝統的に仏教を信仰してきた諸国、諸民族は、経典の使用言語によって、サンスクリット語圏、パーリ語圏、漢訳圏、チベット語圏の4つに大別される。パーリ語圏のみが上座部仏教で、残る各地域は大乗仏教である。

サンスクリット語圏:ネパール、インド(ベンガル仏教、新仏教等)
パーリ語圏:タイ、ビルマ、スリランカ、カンボジア、ラオス等。
漢訳圏:中国、台湾、韓国、日本、ベトナム等。
チベット語圏: チベット民族(チベット、ブータン、ネパール、インド等の諸国の沿ヒマラヤ地方に分布)、モンゴル民族(モンゴル国、中国内蒙古ほか、ロシア連邦のブリヤート共和国)、満州民族、テュルク系のトゥヴァ人やカルムイク人(ロシア連邦加盟国)等。

「チベット仏教の宗派」ニンマ派、カギュ派、サキャ派、ゲルク派……四大宗派

「日本仏教の宗派」
・奈良仏教系(南都六宗系)
 「華厳宗」(日本における)開祖は「審祥」ら、本山は東大寺
 「法相宗」開祖は「道昭」道照とも、本山は興福寺・薬師寺ほか
 「律 宗」開祖は「鑑真」(鑑真和上)、本山は唐招提寺
・平安仏教
 「真言宗」開祖は弘法大師「空海」、本山は八幡山東寺・高野山金剛峯寺ほか
 「天台宗」開祖は伝教大師「最澄」、本山は比叡山延暦寺ほか
・鎌倉仏教浄土系
 「浄土宗」開祖は「法然」(源空・黒谷上人・吉水上人とも)、本山は華頂山知恩院ほか
 「浄土真宗」真宗・一向宗とも、開祖は「親鸞」、本山は龍谷山本願寺(西本願寺)・真宗本廟(東本願寺)ほか
 「融通念仏宗」開祖は「良忍」、本山は大念仏寺
 「時 宗」開祖は「一遍」(一遍上人・智真とも)、本山は藤沢山清浄光寺(遊行寺)
・鎌倉仏教禅系
 「曹洞宗」開祖は「道元」、本山は吉祥山永平寺・諸嶽山總持寺
 「臨済宗」(日本における)開祖は「栄西」ら、本山は建仁寺・円覚寺・妙心寺・東福寺ほか
 「黄檗宗」(おうばくしゅう)開祖は「隠元」(インゲン豆の語源)
・鎌倉仏教法華系
 「日蓮宗」開祖は「日蓮」、本山は身延山久遠寺ほか




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