ヒンズー教

3.教典
 ヒンドゥー教は多くの意味でバラモン教を受け継いでいて、ヴェーダ文献群と、その最後尾に位置するウパニシャッド群は、現代でも聖典として多くのインド人に愛読されている。聖典であるためキリスト教の聖書やイスラム教のコーラン同様、成立後の人為的な変更は無い。

 ヴェーダに次ぐ聖典として、多くの神話を含みヒンドゥー教について広範囲に規定したプラーナ文献がある。庶民に人気のある「ドゥルガー女神が水牛に化けた悪魔を倒す話」はプラーナ文献のひとつである『マールカンデーヤ・プラーナ』にある。

 聖典以外に『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』といった、神の化身が悪と戦う叙事詩は現在も愛読されており、これらの神話に基づく祭礼が各地で盛大に行われている。例として、ラーマーヤナ(ラーマ王子の物語)を劇化した「ラーム・リーラー(英語:Ramlila)」(ベナレス)、マハーバーラタに登場するクリシュナ神の活躍を歌舞劇にした「ラース・リーラー(英語:Rasa lila)」(マトゥラー)がある。

 聖典ではなく叙事詩や抒情詩であるギーター(歌)も民衆の信仰を支えている。特に『バガヴァッド・ギーター』(「神の歌」の意)は民間伝承物語ではあるが、ヒンドゥー教徒の信仰生活を実質的に規定してきた。サンスクリットの大叙事詩『マハーバーラタ』の一部にも含まれる「ギーター」は、その後も熱烈な信仰心をもった詩人達に作られ続けており、その中にはミーラー・バーイー(1499〜1546)のような女性詩人もいる。最近でも例えばマハトマ・ガンディーはギーターを生涯愛好し続けたことで知られる。

「ヴェーダ聖典」
 ヴェーダ(Veda)とは、紀元前1000年頃から紀元前500年頃にかけてインドで編纂された一連の宗教文書の総称。「ヴェーダ」とは、元々「知識」の意である。
 バラモン教の聖典で、バラモン教を起源として後世成立したいわゆるヴェーダの宗教群にも多大な影響を与えている。長い時間をかけて口述や議論を受けて来たものが、後世になって書き留められ、記録されたものである。

 「ヴェーダ詠唱の伝統」は、ユネスコ無形文化遺産保護条約の発効以前の2003年に「傑作の宣言」がなされ「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に掲載され、無形文化遺産に登録されることが事実上確定していたが、2009年9月の第1回登録で正式に登録された。


リグ・ヴェーダ










ヴェーダの分類
 広義でのヴェーダは、分野として以下の4部に分類される。

サンヒター(本集)
 中心的な部分で、マントラ(讃歌、歌詞、祭詞、呪詞)により構成される。

ブラーフマナ(祭儀書、梵書)
 紀元前800年頃を中心に成立。散文形式で書かれている。祭式の手順や神学的意味を説明。

アーラニヤカ(森林書)
 人里離れた森林で語られる秘技。祭式の説明と哲学的な説明。内容としてブラーフマナとウパニシャッドの中間的な位置。最新層は最古のウパニシャッドの散文につながる。

ウパニシャッド(奥義書)
 哲学的な部分。インド哲学の源流でもある。紀元前500年頃を中心に成立。1つのヴェーダに複数のウパニシャッドが含まれ、それぞれに名前が付いている。他にヴェーダに含まれていないウパニシャッドも存在する。ヴェーダーンタとも呼ばれるが、これは「ヴェーダの最後」の意味。古典サンスクリット語に近い。

 更に、各々4部門が祭官毎にリグ・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダなどに分かれる。都合4×4の16種類となるが、実際には各ヴェーダは更に多くの部分に分かれ、それぞれに名称がついている。ヴェーダは一大叢書ともいうべきものである。現存ヴェーダ著作だけでもかなりの多さになるが、古代に失われた多くの学派の文献をあわせると更に膨大なものになると考えられている。

サンヒター
 狭義では、以上のうちサンヒターの事をヴェーダと言い、以下の4種類がある。
リグ・ヴェーダ
 ホートリ祭官に所属。神々への韻文讃歌(リチ)集。インド・イラン共通時代にまで遡る古い神話を収録。全10巻。10巻は最新層のものだと考えられ、アタルヴァ・ヴェーダの言語につながる。

サーマ・ヴェーダ
 ウドガートリ祭官に所属。リグ・ヴェーダに材を取る詠歌(サーマン)集。インド古典音楽の源流で、声明にも影響を及ぼしている。
ヤジュル・ヴェーダ
 アドヴァリュ祭官に所属。散文祭詞(ヤジュス)集。神々への呼びかけなど。黒ヤジュル・ヴェーダ、白ヤジュル・ヴェーダの2種類がある。

アタルヴァ・ヴェーダ
 ブラフマン祭官に所属。呪文集。他の三つに比べて成立が新しい。後になってヴェーダとして加えられた。



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