ヒンズー教

11.その他
「ドヴィジャ」(再生族)
 ドヴィジャまたは再生族(さいせいぞく)は、インドにおける4つのヴァルナのうち、バラモン(ブラーフマナ)、クシャトリヤ、ヴァイシャの3ヴァルナをさす。伝統的に、インドにおいて、出生後の通過儀礼を経てヴェーダの祭式に連なりうるものと考えられてきたヴァルナの総称。

 後期ヴェーダ時代(紀元前1000年頃−紀元前600年頃)における創造讃歌『プルシャ・スークタ(原人の歌)』は、4つのヴァルナ(社会的身分)が生まれた由来を問い、その答えのなかとして次のように説明している。

神々が原人を切り分かちたるとき いくつの部分に切り離したるや。
その口は何に、両腕は何になりたるや。 その両腿は、その両足は何とよばれるや。
 その口はバラモン(司祭)となれり。 
 その両腕はラージャニヤ(武人)となれり。
 その両腿からはヴァイシャ(農民、商人)、 
 その両足からはシュードラ(奴隷)生じたり。

 「ヴァルナ」の原義は「色」であり、上位からそれぞれ白、赤、黄、黒の4色であった。『マヌ法典』にしたがえば、バラモンはヴェーダを学び、これを教え、また、神々への祭祀をおこなわなければならない。クシャトリヤ(ラージャニヤ)は人びとを守り、やはりヴェーダを学ばなければならない。ヴァイシャは牛を飼い、土を耕し、商業を営み、金銭を扱い、そして、ヴェーダを学ぶことが推奨される。

 このように、上記3ヴァルナはヴェーダの祭式に参加する資格を与えられており、8歳から12歳にかけての男子が、その階級の一員になったことを示す聖なる紐をかけられる儀式に参加する。これによって彼らは幼年時代を終え、ヒンドゥーの四住期における「学生期」(ブラフマチャルヤ)にはいるとされる。紐をかけられるこの入門式はウパナヤナと呼ばれ、ヒンドゥー教徒からは第二の誕生とみなされる。

 そのためこの儀式を受けられる三つのヴァルナは再生族(ドヴィジャ)と呼ばれるが、受けることを許されないシュードラ階級は一度しか誕生しない、という意味で一生族(エーカジャ)と称される。

「輪廻転生の矛盾」
 動物を含む生まれ変わりである輪廻、人間のみに生まれ変わる転生、いずれも多くの矛盾を含んでいる。
 輪廻の場合、人間の人口は約70億人(7×109)に対し、例えば昆虫だけでも1018種地球上に存在すると推定されており、仮に人間と昆虫だけにしか輪廻しないとしても、死んで次も人間に生まれ変わる確率は1億分の1以下である。微生物なども含めるとその数は膨大であり、各人の輪廻史の大半は人間以外の動物の生涯を送っていることになる。また古細菌や真正細菌などの原核生物は輪廻の対象となるのか、不明瞭な点も多い。

 転生の場合、地球上の人口は日々増加している。逆に過去の人口は現代よりもっと少なかった。2013年の人口は約70億人であるが、1900年代初頭は20億人に満たなかった。1800年は10億人である。つまり現代の人間の50億人は100年以上前の前世は持たない、新たに生み出された生ということになり、転生は明確に否定される。

「カーマ・スートラ」
 カーマ・スートラは、1000編におよぶといわれる現存する古代インドの性愛論書『カーマ・シャーストラ』のうち、最も古く重要な文献である。
 カーマ(性愛)は、ダルマ(聖法)、アルタ(実利)とともに古来インドにおける人生の三大目的とされてきたが、ヴァーツヤーヤナはカーマの研究の重要性を説き、本書の最後には、情欲を目的としたものではないことをことわっている。
 『カーマ・スートラ』は、7部35章に渡って書かれており、第2部は赤裸々に性行為について綴ってあるため、特に有名である。

1.導入部(全四章) 一般的な愛について。
2.性交について(全十章) 接吻、前戯、性的絶頂、 88手の体位のリスト、 オーラルセックス、スパンキング、 変態性欲、三人婚、インド版九状(玉茎の動かし方)、性器の種類と大きさ。
3.妻を得るには(全五章) 求愛 と 結婚
4.妻について(全二章) 妻の適切な行為
5.人妻について(全六章) 主に婦女誘惑の方法。
6.娼婦(妓生)について(全六章) 妓女必須の64芸に巧み。特に演劇に詳しいことを求める。最高位はガニカー。
7.他人を惹き付けるには(全二章)
 当時のインド社会や人びとの生活を知るうえでも重要な歴史資料である。

「オーム」
 オーム(om、Aum)は、バラモン教をはじめとするインドの諸宗教において神聖視される呪文。漢訳仏典では、おん(口偏に奄)と音写される。なお、日本ではスペル通りに「オーム」と表記する事が多いが、実際にはoとmが同化して鼻母音化し、「オーン」のように発音される事が多い。


バラモン教
 ヴェーダを誦読する前後、また祈りの文句の前に唱えられる。ウパニシャッドにおいては、この聖音は宇宙の根本原理であるブラフマンを象徴するものとされ、特に瞑想の手段として用いられた。
 また、この聖音 は「a」、「u」、「m」の3音に分解して神秘的に解釈される。これは、サンスクリット語ではaとuが隣り合うと同化して長母音oになるという音韻法則があるからである。

 例えば『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』では「a」は『リグ・ヴェーダ』、「u」 は『サーマ・ヴェーダ』、「m」 は『ヤジュル・ヴェーダ』の三ヴェーダを表し、「オーム」全体でブラフマンを表すと解釈された。
 
ヒンドゥー教
 さらに後世のヒンドゥー教になると「a」は維持神ヴィシュヌ、「u」は破壊神シヴァ、「m」は創造神ブラフマーを表し、全体として三神一体(トリムールティ)の真理を表すものとされた。
 
仏教
 この聖音は後に仏教にも取り入れられ、密教では真言の冒頭の決まり文句(オン)として、末尾のスヴァーハー(ソワカ・ソバカ)と共に多用された(例えば「オン アビラウンケン ソワカ」で大日如来の真言)。
 また、仏教の経典『守護国界主陀羅尼経』では「a」は法身、「u」は報身、「m」は応身の三身を象徴し、すべての仏たちはこの聖音を観想する事によって成仏すると説かれる。

「マヌ法典」
 『マヌ法典』は、紀元前2世紀から紀元後2世紀にかけて成立したと考えられている法典(ダルマ・シャーストラ)。世界の創造主ブラフマーの息子にして世界の父、人類の始祖たるマヌが述べたものとされている。バラモンの特権的身分を強調しており、バラモン中心の四種姓(カースト制度)の維持に貢献した。

 『マヌ法典』はそれ以前のインド法典類の中でも最も優れたものであると同時に、バラモン教、ヒンドゥー教などの教義の支柱となった。『マヌ法典』は一般に、その成立以前に存在した法(律法経)を元に成立したとされるが、ヴェーダの一派のマーナヴァ派の影響が大きい。そのため、マーナヴァ派の律法経がその基本にあると考えられる。

 構成は下記の12章2684条からなり、韻文体で書かれ、その内容は、現代的な意味合いのある法律的規定は全体の4分の1で、宇宙論、宗教論、道徳論などの規定が多く含まれる。バラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの四種姓(ヴァルナ)の権利、義務、四住制度(アーシュラマ)における成長過程での通過儀礼やその他の通過儀礼を規定し、最終では輪廻や解脱にいたる。

 法律的な項目としては、国家や国王の行政に関する事項、相続法、婚姻法なども含んでいる。そのためマーナヴァ派の律法経がその基本であるが、汎インド的な特徴を持っている。8世紀から、その注釈書が多く書かれ、長い間ヒンドゥーの生活規範となった。
 また、その内容が理念的で文学的、加えて教訓的な要素が多いために、インド人の生活のみならず、インド人の内面部分、精神部分にまで深く根ざすなど、その影響力は計り知れない。インドはもとより東南アジア世界にも大きな影響をおよぼした。

(構成)
第1章:世界の創造
第2章:ダルマの源
第2章:受胎から幼児時代
第2章:学生、修業期の行動の準則
第3章:婚姻及び婚姻形式の選択
第3章:家長期の行動の準則
第4章:家長期の行動の準則
第5章:家長期の行動の準則
第6章:老後期の行動の準則
第7章:王の行動の準則
第8章:王の行動の準則
第9章:王の行動の準則
第9章:ヴァイシャの生業
第9章:シュードラの生業
第10章:混血集団と特有の職業
第10章:窮迫時の生活法
第11章:罪と贖罪
第12章:輪廻及び真の至福を齎す行為

「ヤージュニャヴァルキヤ法典」
 『ヤージュニャヴァルキヤ法典』とは、3世紀から4世紀にかけてつくられたダルマ・シャーストラのひとつ。聖仙ヤージュニャヴァルキヤがダルマ(社会的宗教的義務)について説くというスタイルをとっており、韻文体で書かれている。
 『ヤージュニャヴァルキヤ法典』は、『マヌ法典』(紀元前2世紀から紀元後2世紀にかけて成立)が著述されたのち、ウッダーラカ・アールニとならんでウパニシャッド最大の哲人と称されるヤージュニャヴァルキヤ(紀元前7世紀から紀元前6世紀にかけて活躍した人)の著作として仮託されたもので、ヒンドゥー社会における生活規範や法規定が集められている。

 慣習・司法・贖罪の3部に分かれており、これによりヒンドゥー世界における法は格段に進歩を遂げ、伝統的なインド社会の秩序観念を大きく規定したとされる。分量は『マヌ法典』の5分の2程度であり、同法典とならび、後世きわめて重視されて、数々の注釈書が刊行された。



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