ヒンズー教

三神一体論(トリムールティ)

「ブラフマー」
 ブラフマーは、インド神話、ヒンドゥー教の神。仏教名「梵天」。三神一体論(トリムールティ)では、最高神の一人で、世界の創造と次の破壊の後の再創造を担当している。 

概要
 ヒンドゥー教の教典にのっとって苦行を行ったものにはブラフマーが恩恵を与える。4つのヴェーダを象徴する4つの顔と4本の腕を持ち、水鳥ハンサに乗った赤い肌の男性(多くの場合老人)の姿で表される。手にはそれぞれ「数珠」、「聖典ヴェーダ」、「小壷」、「笏(しゃく)」を持つ。 配偶神は知恵と学問の女神サラスヴァティー(弁才天)である。

 ブラーフマナ文献やウパニシャッドに説かれる宇宙の根本原理であるブラフマンを人格神として神格化したのがブラフマーである。なお、ブラフマーというのは「ブラフマン」の男性・単数・主格形で、非人格的な宇宙の根本原理としての中性名詞「ブラフマン」と人格神ブラフマンを区別したい時に用いられる。

 インド北部のアブー山に暮らしていたとされ、ここにはブラフマーを祭る大きな寺院がある。そのため、一部にはアブー山に実在していた人物をモデルにしているという説を唱える者もある。

ヴェーダの時代
 ヴェーダの時代(仏教以前:紀元前5世紀以前)、すなわちバラモン教(ブラフマー教?)の時代は大きな力を持っていた。紀元前15世紀から紀元前10世紀に、ブラフマンの神格として現われ、バラモン教では神々の上に立つ最高神とされ、「自らを創造したもの(スヴァヤンブー)」「生類の王(プラジャーパティ)」と呼ばれた。

 宇宙に何もない時代、姿を現す前の彼は水を創り、その中に一つの種子・「黄金の卵(ヒラニヤガルバ)」を置いた。その中に一年間留まって成長したブラフマーは卵を半分に割り、両半分から天地を初めとするあらゆる物を創造した。

ヒンドゥー教の時代
 ヒンドゥー教の時代(5世紀から10世紀以降)になり、シヴァやヴィシュヌが力を持って来るにつれて、ブラフマーはこれら二神いずれかの下請けで世界を作ったに過ぎないとされ、注目度が低くなって行った。
 叙事詩やプラーナ文献の中では、ブラフマーの物語も数多く記されている。しかし、他の神の様に、自分を中心とした独自の神話もなく、観念的なために一般大衆の人気が得られなかった。

 現在ブラフマーを祭っている寺院は少ない。タイのバンコクにはこの神を祀るエーラーワンの祠が建てられ信仰を集めているが、これは悪霊を鎮めるというわかりやすい現世利益によるものである。
 もともとブラフマーにまつわる話が、いくつかヴィシュヌの話として語られる物もある。これはブラフマー信仰がヴィシュヌ信仰に取り込まれて行った結果だと思われる。

 ヒンドゥーの三つの重要な神は、他にシヴァとヴィシュヌであり、ブラフマーは宇宙の創造を、ヴィシュヌは宇宙の保持を、シヴァは宇宙の破壊をそれぞれ担当するが、同じ存在の三つの現われであるとされる。
 ヴィシュヌ派によると、ブラフマーは、ヴィシュヌのへそから生えた蓮の花の中から生まれたとされ、ブラフマーの額からシヴァが生まれたとされる。

 シヴァ派の神話では、カルパ期の終わりヴィシュヌ神とブラフマー神がどちらが宇宙の中枢であり創造主であるか争っている時、巨大なリンガが出現した。ヴィシュヌとブラフマーはこのリンガ(シヴァ神の男性器)の果てを見定めようとしたが見届けられなかったとされる。
 ブラフマーは元々5つの顔であったが、無礼な話し方をしたという理由でシヴァを怒らせ、彼に1つ切り落とされて4つになったという説がある。
 ブラフマーストラという、どんな敵をも必ず滅ぼす投擲武器を持つとされる。

仏教に於ける位置
 経典の説くところでは、釈迦牟尼仏が悟りを開いた時に、その悟りを人々に語るように説得したのが梵天であり、この事を梵天勧請と呼ぶ。後に梵天は釈迦牟尼に帰依し仏法の守護神となる。
 


「ヴィシュヌ」
 ヴィシュヌ(英:Vishnu)は、ヒンドゥー教の神である。仏教名は「毘紐天」、「韋紐天」、あるいは「那羅延天」。音写語としては「微瑟紐」、「毘瑟怒」などもある。

概要
 三神一体論では、3つの最高神の1つで世界を維持する役目があるとされる。
一般には、4本の腕を持ち、右にはチャクラム(円盤、あるいは輪状の投擲武器)と棍棒を、左にはパンチャジャナ(法螺貝)と蓮華を持つ男性の姿で表される。そのためチャトゥルブジャ(4つの武器を持つ者)という称号も持っている。

 メール山の中心にあるヴァイクンタに住んでいる。ヴァーハナ(乗り物)はガルダと呼ばれる鳥の王で、鷲のような姿をして描かれたり、鷲と人を合わせた様な姿で描かれる。神妃(妻)はラクシュミーで、ヴィシュヌの化身に対応して妻として寄り添っている。

 ヴィシュヌ派の創世神話によると、宇宙が出来る前にヴィシュヌは竜王アナンタの上に横になっており、ヴィシュヌのへそから、蓮の花が伸びて行きそこに創造神ブラフマーが生まれ、ブラフマーの額から破壊神シヴァが生まれたとされている。

 古くは『リグ・ヴェーダ』にもその名の見える起源の古い神格で、世界を3歩で踏破する自由闊歩の神だった。その名はサンスクリットで「広がる」「行き渡る」を意味するviSに由来し、恐らくは世界の果てまで届く太陽光線の神格化であったと考えられる。そのため後には太陽神アーディティヤの1人ともされた。最終的には他の太陽神スーリヤを取り込んだ。

 しかし、『リグ・ヴェーダ』では、まだ特に重要な位置は持ってはいない。神話も、少数の讃歌を除けば、主要神インドラが悪と闘う際の盟友のひとりとして言及されている程度である。
 後のヒンドゥー教の時代になって、英雄や土着の神をその化身、アヴァターラとして取り込んで行くことで民衆の支持を集め、ついにはブラフマー、シヴァと共に三神一体(トリムールティ)の最高神の位置を獲得した。

 10世紀前後に作られたカジュラホの寺院群のいくつかで祭られているヴィシュヌの神像は、寺院を飾るインド的彫刻とくらべて、メソポタミアやエジプト的な印象を受ける。10世紀以降に南インドでヴィシュヌに関して独自の儀式や教義が発達した。

アヴァターラ(化身)
 ヴィシュヌは、アヴァターラと呼ばれる10の姿に変身して地上に現れるとされる。これは、偉大な仕事をした人物や土着の神を「ヴィシュヌの生まれ変わり」として信仰に取り込む為の手段であったと考えられる。よく「化身」と訳されるが、インカネーションとは意味合いが異なる。「権化」「権現」「化現」を使った方が正しい。

 クリシュナ、ラーマなどが有名な勇者で、クリシュナは叙事詩『マハーバーラタ』で、ラーマは叙事詩『ラーマーヤナ』で語られている。
また、仏教の開祖仏陀もヒンドゥー教ではヴィシュヌのアヴァターラとされるが、人々を混乱させるために来たとされ、必ずしも崇拝されているわけではない。
 ヴィシュヌの生まれ変わりであるアヴァターラは以下の通り。

1.マツヤ (Matsya)、魚
 大洪水の時に賢者マヌの前に現われ7日後の大洪水を預言し、船にあらゆる種子と7人の聖者を乗せるよう言った。

2.クールマ (Kurma)、亀
 神々が不死の霊水アムリタを海から取り出そうとした時、亀の姿になって現われて作業を助けた。

3.ヴァラーハ (Varaha)、猪
 大地が水の底に沈められようとしたときに、猪の姿で現われ大地をその牙で支えた。

4.ナラシンハ (Narasimha)、ライオン男
 半人半獅子の姿で悪魔ヒラニヤカシプを退治した。

5.ヴァーマナ (Vamana)、矮人
 悪神バリによって世界が支配されたときに現われ、バリと3歩歩いた広さの土地を譲り受ける約束をした後、巨大化し世界を2歩で歩き3歩目でバリを踏みつけた。

6.パラシュラーマ (w:Parashurama)、斧を持つラーマ
 クシャトリア族が世界を支配した時、神々、ブラフマン、人を救った。

7.ラーマ(Rama) (意味は「心地よい」)
 叙事詩『ラーマーヤナ』の英雄。魔王ラーヴァナから人類を救った。

8.クリシュナ (Krishna) (意味は「闇」または「黒」)
 叙事詩『マハーバーラタ』の英雄。特にその挿話『バガヴァッド・ギーター』で活躍。

9.ゴータマ・ブッダ (仏陀/釈尊)
 偉大なるヴェーダ聖典をアスラから遠ざける為に、敢えて偽の宗教である仏教を広めた(バーガヴァタ・プラーナ)。
 
10.カルキ(Kalki) (”時間”)、救世主
 カリ・ユガ(世界が崩れ行く時代)の最後、世界の秩序が完全に失われた時代に現れて悪から世界を救い、新しい時代(ユガ)を始めるという。

 化身の数は、22種類ある場合もある。一般的には上記のダシャーヴァターラ(10化身説)が用いられる。ゲームのウルティマ・シリーズでのアバタールや、オンライン・コミュニティ・サービスでのユーザーの視覚的イメージであるアバターはこの言葉に由来する。



「シヴァ」
 シヴァは、ヒンドゥー教の3最高神の一柱。創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌに対してシヴァ神は破壊を司る。シヴァ神を信仰する派をシヴァ教という。日本では慣用的にシバともいう。

概要
 ヴェーダ神話に登場する暴風雨神ルドラを前身とし、『リグ・ヴェーダ』では、「シヴァ」はルドラの別名として現われている。暴風雨は、破壊的な風水害ももたらすが、同時に土地に水をもたらして植物を育てるという二面性がある。このような災いと恩恵を共にもたらす性格は、後のシヴァにも受け継がれている。

 ヒンドゥー教の三神一体(トリムールティ)論では、3つの重要な神の1人として扱われ、世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目をしている。

 シヴァの妻はパールヴァティーで、その間の子供がガネーシャ(歓喜天)である。軍神スカンダ(韋駄天)は、シヴァの精をアグニやガンガーに媒介させてもうけた子である。また、シヴァ神の乗物はナンディンと呼ばれる牛で、ナンディンも神として崇拝されている。通常、シヴァの寺院の前にはナンディンが祭られている。

姿
 シヴァの姿が人間的に描かれる時には、皮膚の色は青黒い色で、三日月の髪飾りをした髪の毛は長く頭の上に巻いてあり、裸に短い腰巻だけを纏った苦行者の姿で、片手に先が3つに分かれた「トリシューラ」と呼ばれる鉾を持っている。「ピナーカ」と呼ばれる弓を持つ場合もあるが、しばしばトリシューラと混同されている。

 別の腕には、ダムルーと呼ばれるワンハンドサイズの両面太鼓を持つ。首に蛇を巻いている姿でも描かれる。両目の間には第3の目が開いており、彼が怒る時には激しい炎(パスパタという投げ槍として現す事も)が出て来て全てを焼き尽くすとされる。額には白く横に3本の線が描かれる。腰巻は多くの場合虎の皮で描かれる。四面四臂の姿でも描かれる。

 頭頂部からは小さな噴水の様に水が吹き出しており、絵画で描かれる場合には頭髪の中ではガンガー女神が口から水を噴出しているものも多い。これはヒマラヤ山脈におけるガンジス川の始まりの水を示す。また、首を持ち上げたコブラとともに描かれる。
 ヒマラヤのカイラーサ山がシヴァの住いで、瞑想に励んでいるとも言われる。サドゥと呼ばれるヒンドゥー教の修行者の一部、特にヒマラヤ周辺の修行者は、上のシヴァの姿に良く似た姿をしている。

 シヴァが第3の目を得た理由についてはこんな逸話がある。シヴァの瞑想中に、彼がかまってくれないので退屈したパールヴァティーが両手で彼の両目を塞いだ所、たちまち世界が闇に包まれた。すると、シヴァの額に第3の目が現れ、そこから炎が噴出されてヒマラヤの山々を燃やし、世界を再び明るくしたという。
 
異名
 シヴァは教学上は破壊神であるが、民間信仰ではそれにとどまらない様々な性格を持ち、それに従って様々な異名を持つ。
 マハーカーラ(大いなる暗黒)とも呼ばれ、世界を破壊するときに恐ろしい黒い姿で現れるという。マハーカーラは漢訳仏典では大黒天と意訳される。日本では神道の大国主の「大国」が「ダイコク」とも読める事から同一視され、七福神の1人として、シヴァの名前を使っていないが日本ではなじみ深い神である。

 ピナーカを保持していることから「ピナーカパーニ」(ピナーカを持ちし者)と言う呼び名も持つ。 またマヘーシュヴァラとも呼ばれ、漢訳仏典では大自在天あるいは摩醯首羅と訳される。降三世明王の仏像は足下にシヴァとパールヴァティーを踏みつけた姿で刻まれるのが一般的である。

 ナタラージャ(踊りの王)とも呼ばれ、丸い炎の中で片足をあげて踊っている姿の彫像で描かれる。
 乳海攪拌の折にマンダラ山を回す綱となった大蛇ヴァースキが、苦しむあまり猛毒(ハラーハラ)を吐き出して世界が滅びかかったため、シヴァ神が毒を飲み干し、その際に喉が青くなったため、ニーラカンタ(青い喉)とも呼ばれる。

 また、「金で出来た都市」、「銀で出来た都市」、「鉄でできた都市」の3つの悪魔の都市をトリシューラで焼き尽くしたので、三都破壊者とも呼ばれる。
 ハラとも呼ばれ、ハリと呼ばれるヴィシュヌに対応する。

 その他、バイラヴァ(恐怖すべき者)、ガンガーダラ(ガンジスを支える神)、シャルベーシャ(有翼の獅子)、パシュパティ(獣の王)、マハーデーヴァ(偉大なる神)、シャンカラ、等などと呼ばれ、その名は1,000を超える。

シヴァの妃
 シヴァ神の信仰を語るには、その妻たちの存在は欠かせない。シヴァ神妃たちはシヴァ神の最初の妻サティーが死亡した際、それを嘆き悲しんだシヴァは、彼女の体を抱き上げて都市を破壊しながら世界を放浪した。それを見かねたヴィシュヌ神がチャクラでサティーの死骸を切り刻み、シヴァを正気に戻した。

 そのとき、世界にサティーの肉片が飛び散り、落ちた地がシヴァの聖地となり、肉片はそれぞれシヴァの妃としてよみがえったとされる。シヴァ神の妃は正妻は、前述のようにパールヴァティー神が位置づけられているが、その他にも数百の妃が存在すると言われる。

 古い時代に見られたシヴァ神の暴力性や破壊性は、シヴァ神の異名や神妃たちに吸収され、ドゥルガーやカーリーのような破壊衝動の激しい女神となった。シヴァの神妃の中でも正妻に位置づけられるパールヴァティ自身がサティーの転生とされる事から、数百に上るシヴァの神妃たちのすべてがパールヴァティのそれぞれの一面を示すものだとも解釈が可能である。こうしたシヴァ神妃たちは、ヒンドゥー教が拡大する過程で、各地の土着の女神信仰を吸収するために多くの女神たちにシヴァの妃の地位を与えるための解釈と考えられる。
 
(主なシヴァ神妃)
サティー
パールヴァティ女神 
ドゥルガー女神:アスラの王によってマヒシャによって天界が占領された時、神々の怒りの炎から出現した女神。十本の腕を持つ姿で描かれる。 カーリー女神:アスラと戦うドゥルガー女神の憤怒から生まれた女神 十本の腕と真っ黒でやせ細った体、生首のネックレスをした姿で描かれる。

シヴァリンガ
 ヒンドゥー教のシヴァの寺院では、上の姿ではなく神体としてシヴァリンガがシンボルとして安置されており、それが礼拝の対象になっている。シヴァリンガは、リンガとヨーニの2つの部分からなり、内側が受け皿状の円形または方形のテーブルの横に油が流れ出る腕が付いているヨーニの中心部に、リンガと呼ばれる先の丸い円柱が立っている。

 ヨーニは女性器の象徴で、リンガは男性器の象徴であり、性交した状態を示す。ただし、我々は性交しているシヴァを女性器の内側から見ている形になっている。これは、シヴァ神が女性と性交をして現われたのがこの世界で、それが我々の住んでいる世界という意味になっている。
 リンガは半貴石を使って作られることが多い。新しい寺院では黒い石を使うことが多いが、古い寺院では赤黒い石を使ったり、白い石を使ったものもある。ヨーニは普通の岩であることが多い。個人が寺院以外の場所で礼拝する際には砂や土を盛り上げて作ることが多い。



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