イスラム教

11.その他
「イギリスの三枚舌外交」
 第一次世界大戦(1914〜1918)で、オスマン・トルコは同盟国側に立って戦いました。イギリス(連合国側)はトルコを苦しめるために、トルコ領内のアラブ民族の独立を支持するマクマホン宣言を発しました。その一方でイギリスは、ユダヤ人の経済的協力を得るため、バルフォア宣言を発し、ユダヤ人のパレスチナ復帰運動を支持しました。両宣言の矛盾が後にパレスチナ問題を引き起こす原因となりました。
 また、1916年のサイクス・ピコ協定により、イギリス・フランス・ロシアは、アラブ地域の分割を密約していました。

「ムハンマドと女性」
 イスラーム共同体(ウンマ)がヒジュラとマッカ征服によって急速に勢力を拡大すると、抗争をくり返していたアラビア半島のアラブ諸部族は共同体の首長であるムハンマドの政治交渉における誠実さを見込み、彼と同盟関係を結ぶなどした。この過程でムハンマドは共同体内部の有力家系の婦女の他に、征服した勢力や同盟・帰順関係を結んでいたアラブ諸部族などからも妻を迎えることとなった。伝承によると、ムハンマドの妻たちは22人居たと伝えられる。ムハンマドの女性観・女性関係は、非ムスリムを中心として批判される原因ともなった。

「アッラーとは」
 世間にひとつの誤解がある。その誤解は、イスラムの神アッラー、という表現に端的にあらわれている。イスラムには独自の神があるのだ、とする誤解である。それがなぜ誤解であるのかといえば、イスラムの文脈での神は、ユダヤ教やキリスト教がいう神と同一の存在であるからである。言い換えれば、イスラムとユダヤ教とキリスト教は、同一の神を共有する宗教である、ということになる。イスラムとは、宗教の面では、ユダヤ教やキリスト教とほとんど同じ信仰なのだ。

 この3者が共有している神は、創世記などの言葉でいえばヤハウエであり、それをギリシャ語やラテン語でいえば、エホバとかゼウスとなり、英語でいえばゴッドであり、イスラムにとっての基本的な言語であるアラビア語でいえばアッラーとなるわけだ。アッラーの神(神の神)などと表現して、それはキリスト教がいう神とは別のイスラムの独特の神なのであり、そこからイスラムの特殊性を理解しようとするのは、無知に基づく誤解でしかない。(歴史読本ワールド「イスラムの謎」新人物往来社)

「アラビア語のアッラーフ」
 アッラーフは、アラビア語でアブラハムの宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教)の唯一神に対する呼称のひとつ。アッラーまたはアラーともいう。元来、アラビア語でアッラーフは英語でいう God である。そのため、現在ではアブラハムの一神教といわれるユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の共通の唯一絶対神を指す。

 アッラーフはアラビア語で特定の神を指し示す言葉であることから、イスラーム発祥当時のアラブにいたユダヤ教徒・キリスト教徒も唯一神であるヤハウェをさしてアッラーフと呼んでいた。ムハンマドに啓示が下された後、イスラームにおいても万物を創造し、かつ滅ぼすことのできる造物主こそが唯一とされ、その超越性が強調されるようになった。

 ただし、考古学的見地では、ヤハウェとイスラーム教の唯一神アッラーフは別の起源であり、イスラーム教の唯一神アッラーフは、630年以前は、カアバ神殿に祭祀されていた最高神の呼称である。イスラーム教でいうジャーヒリーヤ(無明時代)に、カアバ神殿に祭祀されていた360の神々の最高神がアッラーフとされていた。アッラーフの下には、アッラート、マナート、アル・ウッザーの3女神が付き従っていたという。これらの女神はアラブの部族神であり広く信仰されていたが、クルアーンにおいて否定された。月からの隕石とされていた黒曜石は、アッラーフの神体とされていた。もちろん、偶像崇拝を禁じるイスラーム教では、信仰及び崇拝の対象になってはいないが、ハッジ(メッカへの巡礼)においてこの石に触れることができれば大変な幸運がもたらされるとされている。

「黒石」
 黒石(くろいし)は、英語ではBlack Stone「ブラックストーン」とも呼ばれており、これはイスラム教の伝承によればアダムとイヴの時代にまで遡るというムスリムの聖宝である。テクタイトもしくは隕石であるとも考えられている。サウジアラビアのメッカに所在する大モスクであるマスジド・ハラームの中央に位置し、世界のムスリムがその方角を向いて祈る古代の聖なる石造建築、カアバの東隅に据えられた要石である。黒石の直径はおよそ30センチメートル、地面からの高さは1.5メートルである。

 イスラムの伝承では、黒石は、どこに祭壇を築き神に犠牲を捧げれば良いのかをアダムとイヴに示すため、天国から降って来たものであると伝えられている。祭壇は地上で最初の寺院となった。石は最初は目映く輝く純粋な白であったのだが、長年に亘り人々の罪業を吸収し続けたために黒くなってしまったのだという。伝承は、アダムの祭壇と石は大洪水で失われ一度忘れ去られたのだとしている。大天使ガブリエルがその在処をアブラハムに示し、黒石とアダムの祭壇の場所は再発見された。アブラハムは息子イシュマエル(ムハンマドの祖先)に、石を埋め込むための新しい寺院を建設するよう命じた。この新しい寺院がメッカのカアバである。






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