キリスト教


11.その他……2
「パウロの回心」
 パウロは、初期キリスト教の理論家であり、新約聖書の著者の一人。キリスト教発展の基礎を作った。ユダヤ名でサウロとも呼ばれる。古代ローマの属州キリキアの州都タルソス(今のトルコ中南部メルスィン県のタルスス)生まれのユダヤ人。

 新約聖書の『使徒行伝』によれば、パウロの職業はテント職人で生まれつきのローマ市民権保持者でもあった。ベニヤミン族のユダヤ人でもともとファリサイ派に属し、エルサレムにて高名なラビであるガマリエル1世(ファリサイ派の著名な学者ヒレルの孫)のもとで学んだ。パウロはそこでキリスト教徒たちと出会う。熱心なユダヤ教徒の立場から、初めはキリスト教徒を迫害する側についていた。

 ダマスコへの途上において、「サウロ、サウロ、なぜ、わたしを迫害するのか」と、復活したイエス・キリストに呼びかけられ、その後、目が見えなくなった。アナニアというキリスト教徒が神のお告げによってサウロのために祈るとサウロの目から鱗のようなものが落ちて、目が見えるようになった。こうしてパウロ(サウロ)はキリスト教徒となった。この経験は「パウロの回心」といわれ、紀元34年頃のこととされる。一般的な絵画表現では、イエスの幻を見て馬から落ちるパウロの姿が描かれることが多い。

「予定説」
 予定説とは、ジャン・カルヴァンによって提唱されたキリスト教の神学思想。カルヴァンによれば、神の救済に与る者と、滅びに至る者が予め決められているとする(二重予定説)。全的堕落と共にカルヴァン主義の根幹を成す。マックス・ヴェーバーは論文「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で、カルヴァン派の予定説が資本主義を発達させた、という論理を提出した。

 現世でどう生きようとも救済される者は予め決まっているというのであるなら、快楽にふけるという者もありうるはずだ。しかし人々は実際には、「全能の神に救われるように予め定められた人間は、禁欲的に天命を務めて成功する人間のはずである」と考えた。その結果増えた収入も享楽目的には使わず更なる仕事のために使おうとした。そしてそのことが結果的に資本主義を発達させた、という論理である。

「アブラハムの宗教」
 アブラハムの宗教とは、聖書の預言者アブラハムの宗教的伝統を受け継ぐと称するユダヤ教、キリスト教、イスラム教(イスラーム)の三宗教のことである。初期のイスラームはこの概念によって、先行するユダヤ教・キリスト教とイスラームは立場が同じであることを強調した。「セム族の啓示宗教」、あるいは単に「啓示宗教」と称されることがある。「砂漠の一神教」、「聖書宗教」、「啓典宗教」など多くの「総称」を持ち、「アブラハムの宗教」もその一つである。

「キリスト教の異端」
仮現説(ドケティスム)……人間としてのキリストは見せかけのもので、あくまで神的存在であったと考える。
グノーシス主義……ギリシャ語の知識(グノーシス)に由来。二元論的世界観。
エビオン派……2世紀、イエスは人間で神の養子である(養子論、養子的キリスト論)。処女懐胎を否定、唯一神の強調。
マルキオン派……2世紀のマルキオンに由来。旧約・新約の神を区別して旧約の神を否定、また、神が人間のように苦しむはずがないとしてイエスの肉体を否定する。グノーシス主義に近い。
モンタノス派……2世紀、モンタノスが創始。禁欲的生活を呼びかける。テルトゥリアヌスも加わっていた。
モナルキア主義……3世紀、唯一神論ともいう。
天父受苦説……3世紀、様態的モナルキア主義ともいう。
サベリウス主義……3世紀、様態的モナルキア主義の一種。キレナイカのサベリウスが創始。
キリスト人間説……3世紀、動態的モナルキア主義ともいう。サモサタのパウロスなどが論者。養子的キリスト論に近い。
アポリナリオス主義……4世紀、ラウデキア司教アポリナリオスはキリストは人間の魂をもっていなかったと主張。
アリウス派……4世紀、キリストの人間性を重視し、神との同一視を否定。
エウキテス派……東方教会より分裂。
ルシフェル派……4世紀の司教ルシフェル・カラリタヌスに由来。
単性説 4世紀、エウテュケスが唱える。
ネストリウス派……5世紀のコンスタンティノポリス司教ネストリオスに由来。
ペラギウス主義……5世紀、ブリタニアの修道士ペラギウスに由来。
万人救済主義……アウグスティヌスは信者のみ救われると主張した。
プリスキリアヌス主義……5世紀のスペインで起こる。 
アンリ派……12世紀、ロザンヌの修道士アンリに由来。
ペトロ・ブルイス派……12世紀、ブリュイのペトルスに率いられる。 
ボゴミール派……10世紀、ブルガリア人修道士ボゴミールが創始。
ソッツィーニ派……16世紀イタリアの神学者レリオ・ソッツィーニに由来する。
※異端とカルト
 本来はカルトの定義に相応しいものが異端と同義であるかのように捉えられることもある。モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)、エホバの証人、統一協会等であり、これらが異端であると同時に破壊的カルトでもあると認識されている。

「ミトラ教」
 ミトラ教またはミスラス教は、古代ローマで隆盛した、太陽神ミトラス(ミスラス)を主神とする密儀宗教である。
 普通、ミトラス教は古代のインド・イランに共通するミスラ神(ミトラ)の信仰であったものが、ヘレニズムの文化交流によって地中海世界に入った後に形を変え、主にローマ帝国治下で紀元前1世紀より5世紀にかけて発展、大きな勢力を持つにいたったと考えられている。しかし、その起源や実体については不明な部分が多い。

 ローマ帝国時代において、ミトラス教では冬至を大々的に祝う習慣があった。これは、太陽神ミトラスが冬至に「再び生まれる」という信仰による(短くなり続けていた昼の時間が冬至を境に長くなっていくことから)。この習慣をキリスト教が吸収し、イエス・キリストの誕生祭を冬至に祝うようになったとされる。

「グノーシス主義」
 グノーシス主義は、1世紀に生まれ、3世紀から4世紀にかけて地中海世界で勢力を持った古代の宗教・思想の1つである。物質と霊の二元論に特徴がある。普通名詞としてのグノーシスは古代ギリシア語で「認識・知識」を意味する言葉である。「世界は悪に満ちており、叡智によって邪悪な肉体から精神を浄化しなければならない」という立場をとった。代表的なグノーシス主義宗教はマニ教である。

「マニ教」
 マニ教は、サーサーン朝ペルシャのマニ(216〜276/277年)を開祖とする二元論的な宗教である。
 ユダヤ教・ゾロアスター教・キリスト教・グノーシス主義などの流れを汲んでおり、経典宗教の特徴をもつ。かつては北アフリカ・イベリア半島から中国にかけてユーラシア大陸で広く信仰された世界宗教であった。マニ教は、過去に興隆したものの現在ではほとんど信者のいない、消滅した宗教と見なされてきたが、今日でも、中華人民共和国の福建省においてマニ教寺院の現存が確かめられている。

「12世紀ルネサンス」
 12世紀ルネサンスは、ヨーロッパ中世の12世紀にも、古典文化の復興と、文化の高揚が見られるとして、使われる言葉である。アメリカの歴史家チャールズ・ホーマー・ハスキンズが『12世紀ルネサンス』の中で提唱し、現在では様々な面から12世紀の文化が再評価されている。古典の文化がイスラム・ビザンツの文化を経由してヨーロッパに伝えられ、大きな刺激を与えた。また哲学、美術、文学など様々な分野で新しい動きがみられた。

「マリアンヌ」
 マリアンヌ(Marianne)は、フランス共和国を象徴する女性像、もしくはフランス共和国の擬人化されたイメージである。自由の女神として知られる。フランス革命の際にサン・キュロットの象徴とされたフリジア帽と呼ばれる帽子をかぶっている。フランスのユーロ硬貨・切手・国璽などに描かれたり、庁舎などの公的施設にその彫像が設置されるなどして、共和制及び自由の象徴として国民に親しまれている。


「世俗主義」
 世俗主義(Secularism)とは
1.政策や政府機関が特定の宗教の影響から独立していなければならないという主張。あるいは宗教に特権的地位や財政上の優遇を与えないこと。政教分離原則。
2.個人が宗教的規則や宗教教育から自由でいる権利、支配者による宗教の強制からの自由。信教の自由。
3.人の行動や決断が(宗教の影響を受けていない)事実や証拠に基づいてなされるべきだという主張。

 最も顕著な形の世俗主義は、宗教に関し、「迷信とドグマ(教義)を強調し、理性や科学的探求を軽視し、人類の進歩を阻害するもの」と批判する。世俗主義を支持する目的は多様である。

 ヨーロッパでの世俗主義は、宗教的伝統の価値観から離れ、社会が近代化へと向かう運動の一部であった。この種の社会的、哲学的世俗主義は、国家が公式な国教への支援を続けている間に起きた。
 アメリカ合衆国では、社会レベルでの世俗主義は一般的ではなく、それよりもむしろ宗教を国家の干渉から守るために国家世俗主義が推進されたと主張されている。世俗主義を支持する理由は、一つの国の中でも立場によって異なる。

 中近東では、汎アラブ主義(シリア、ナーセル時代のエジプト、サッダーム・フセインまでのイラク)は世俗主義と見なされる。また、トルコは、イスラーム主義系とされるAKPが政権与党であるが、憲法に世俗主義が明記されている。


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