炎のランナー 


1981 イギリス
監督:ヒュー・ハドソン
音楽:バンゲリス
出演:ベン・クロス、イアン・チャールソン

 映画自体はよくわからなかったが、数日後、新聞にある反戦牧師が「天皇制は全体主義だが、キリスト教は民主主義だ」と発言している記事があった。実は「炎のランナー」の中で、牧師が「神への道は決して民主主義ではない」と語るシーンがあった。宗教集団とは、すべて自分の宗派が最もすぐれていると思い込んでいる狂信者の集まりであって、教祖が全権力を握る絶対服従の組織である。民主主義的であるはずがない。この牧師は、キリスト教の血で彩られた歴史を知らず、キリスト教と西欧の近代文化を混同していたのではないか。


(ストーリー )
 1919年、ケンブリッジ大に入学したハロルド・エイブラハムズ(ベン・クロス)は、自分がユダヤ人であることを強く意識していた。アングロ・サクソンの有形無形の差別に反発し、その鬱憤を発散するため走った。

 同じ頃、スコットランドではエリック・リデル(イアン・チャールソン)が駿足を謳われていた。彼は宣教師の家庭に生まれ、彼も父の後を継ぐつもりだった。彼にとって、走ることは神の思寵をたたえることだったが、妹のジェニー(シェリル・キャンベル)は彼が一日も早く宣教の仕事を始めることを望んでいた。

 ケンブリッジでは、ハロルドを中心に、障害物のアンドリュー(ナイジェル・ヘイヴァース)、中距離のオーブリー(ニコラス・ファレル)とヘンリー(ダニエル・ジェロール)が活躍をし、24年のパリ・オリンピックを目指して練習を続けた。ハロルドはスコットランドまで行き、エリックが走るのを見学。ある夜、オペラ見物に出かけたハロルドは、歌手のシビル(アリス・クリージャ)に一目惚れし、早速デートに誘い出す。

 23年、ロンドンでの競技会で、エリックとハロルドは対決。わずかの差でエリックが勝つ。ハロルドはサム・ムサビーニ(イアン・ホルム)のコーチを受けることになった。そのためトリニティの学寮長(ジョン・ギールグッド)とキースの学寮長(リンゼイ・アンダーソン)に、アマチュア精神にもとると批難されたが、彼は昂然と反論した。

 オリンピック出場が決定したケンブリッジ四人組とエリックは、パリに向かう。百メートルの予選が日曜日と知ってエリックは出場を辞退する。日曜は神が定めた安息日だから、走れないというのだ。選手団長のバーケンヘッド卿(ナイジェル・ダヴェンポート)、皇太子(デイヴィッド・イエランド)、サザーランド公(ピーター・イーガン)の説得も効はなかった。アンドリューが四百メートルに出る権利をエリックに譲ると申し出る。

 百メートルではハロルドが、米国のパドック(デニス・クリストファー)、ショルツ(ブラッド・デイビス)を押えて優勝。競技場近くの宿に一人残っていたサムは、ハロルドの勝利を知り感涙にむせぶ。四百メートルでは、エリックが勝利をおさめた。帰国した選手たちに、イギリス国民は惜しみない賞賛を与えるのだった。

(キネマ旬報)


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