篤姫 信念の重要さ描く


   
 ドラマ批評を始めて十数年。正直に告白すると、NHKの大河ドラマにここまで夢中になったことはない。
 歴史は、一個人の人間関係や、人の思いだけではどうにもならないところで大きく動く。「篤姫」の紡ぐ歴史は、それとはちょっと違う。人生において、まず大きな意味をもつのは人の信念、そして人間関係。歴史を語るにも、大切なのはとにかくそこのとこ!に徹している。

 篤姫は、薩摩の今和泉島津家に生まれ、後に島津斉彬の養女となる。やがて、徳川13代将軍・家定に嫁ぎ、落飾後は天璋院となり、江戸城の無血開城などを陰で支える。「おなごの道は一本道」と、将軍家のために尽力する。
 その節目節目に描かれるのは、彼女の人の心を動かす力だ。家定との愛と信頼関係も、そんな力で結ばれている。

 篤姫(宮崎あおい)は、ウツケとうわさされる家定(堺雅人)が、実はフリをしていることを見抜く。そして、家定は、彼女の深い洞察力、人への思いやり、彼女自身の信念などを知り、フリをする訳を明かす。死後も篤姫が政治にかかわれるよう、遺書さえ残す。
 桜田門外の変で、暗殺された井伊直弼(中村梅雀)もそうだ。篤姫とは政治的には対立したが、最後の茶席で、自分の考えに聞く耳をもつ篤姫の度量の大きさに感服する。

 この篤姫、絶対に敵にしたくないタイフだ。しかしそう思うのは、私もまた篤姫同様に、人との関係の重さを日々に感じているから……と言ったらおそれ多いか。
 現在、14代将軍・家茂(松田翔太)のもとに、和宮(堀北真希)が嫁ぎ、天璋院は姑となった。その和宮さえも圧倒するパワー。女の一本道はどこまで続くのか。

(中町綾子・日本大学芸術学部准教授)

(2008-9-1 朝日新聞)



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