食を守る


 「では黄色いたくあんを作ります」。輪切りした大根に、ポリリン酸ナトリウムなどの粉末を次々とまぜる。「はい、これで表面はつやつや。あとは色がさめないようにと…」。わずか数分できれいに仕上がったたくあん。会場で身を乗り出して見ていた主婦たちから驚きの声が漏れた。
 講師は添加物商社の元営業マンで、2005年に「食品の裏側」(東洋経済新報社)を出版した安部司さん(55)。身近な食品に含まれる添加物の実体を明かして評判となり、消費者や生産者団体、食育を考える幼稚園などの招きに応じ、各地を飛び回っている。

 添加物を熟知し、めん類や漬物など「安くて売れる」食品を次々と開発。取引先に「添加物の神様」とまで呼ばれていた安部さんに、転機が訪れたのは約20年前だ。妻が買ってきたミートボールを喜んで食べる長女の姿にがくぜんとした。くず肉と添加物を多用し、自ら開発した製品だった。
 「家族に食べさせられないようなものを、人に売ることはできない」。悩んだ末に会社を辞めた。無添加食品や昔ながらの塩作りに取り組む傍ら、講演活動を始めた。

 熊本市で自然食レストラン「ティア」を経営する元岡健二さん(59)は約5年前、スパゲティに使う無添加の辛子めんたいこを探していて安部さんと知り合った。「消費者の意識を変え、地道に頑張っている生産現場を支えないと、国そのものが駄目になる」。二人の思いは同じだった。
 「ティア」は、地産地消を掲げたバイキング形式のレストランの草分け的存在。大手のとんかつチェーン店の社長を務めた元岡さんが「三世代家族が一緒に安全な食事を楽しめるように」と、1996年に開いた。

 店で出す野菜を求めて農家に話を聞くうちに「規格」に苦しんでいることが分かった。大きさや形がふぞろいだったり定量が集まらなかったりすると、捨てるしかない。
 「もったいない。価値あるものは生かそう」。今では足の切れたタコも届き、有機の野菜や豆とあえた料理が店に並ぶ。

 「経済性より安全に価値を見いだし、次の世代に引き継ぎたい」。日本の食を守りたいとの考えに共鳴した人たちが開いたグループ店は、長崎、広島、愛知など13店に広がっている。

(琉球新報 2007-1-14)



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